お役立ちコラム
葉酸はこころの健康にも大切な栄養素!
~葉酸とうつ~更新日:2024/09/26
葉酸はビタミンB群の1つで、人間が生きていくために必要な量を食事から摂取しなければならない大切な栄養素です。近年、野菜の摂取不足に伴い、特に若い世代では推奨摂取量に満たないという統計結果も報告されています。
葉酸が不足すると、貧血が起こりやすく、めまいや息切れ、動悸などの症状があらわれてきます。また、身体の不調だけでなく、気分の落ち込みなどこころにも様々な不具合を引き起こします。
今回は葉酸とこころの健康について気になる方に向けて、関連する報告や葉酸の特徴、葉酸を多く含む食材などについて説明します。
葉酸とうつの関係
葉酸は、こころの健康との関係が報告されている栄養素です。
ここでは2つの研究をもとに、睡眠やうつと葉酸の関係について説明します。
寝つきの悪さと葉酸は関係している
2023年に血液中の葉酸の濃度が低いと寝つきが悪くなることが報告されました※1)。
その報告によると、2005~2006年と2007~2008年に実施したアメリカの国民健康栄養調査のデータをもとに、20歳以上の男女8,926人のうち、1か月に15回以上、寝つきの悪さ感じている重度の入眠困難者683人とそれ以外の人と比較すると、顕著に血中の葉酸濃度が低いことが明らかになりました。重度の入眠困難者のうち65%が女性であることから、特に女性は葉酸と寝つきの悪さが関係していることが考えられます。
そして、寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚める、昼間に疲れや眠気を感じるなどの不眠症状が4週間以上続くと、うつ病になるリスクが2倍になるという研究結果もあることから※2)、葉酸と睡眠、そして、うつは密接に関連することが考えられます。
葉酸とうつ症状の関係
九州の2か所の市役所にてフルタイムで働く人545名において、2006年と2009年時点の血液中の葉酸濃度とうつ症状の比較検討が行われました。
2006年時点では、うつ症状のない男女272名において、血液中の葉酸の濃度が低いグループ(2.5ng/mL)と中間のグループ(3.9ng/mL)、高いグループ(6.1ng/mL)の3グループに分けて、3年後の2009年時点でのうつ症状の発症リスクの比較をした結果、血液中の葉酸濃度が高いグループになるほどうつ症状が表れるリスクが低いことが分かりました※3)。
うつ症状はセロトニン、ドーパミンなどの脳内神経伝達物質の分泌の低下が要因の一つです。そして、セロトニンは睡眠ホルモンであるメラトニンの原料になることも知られています。神経伝達物質の合成に必要なたんぱく質や、葉酸を含むビタミンB群やミネラルなどの不足により寝つきの悪さやうつ症状が発症しやすくなると考えられます。
葉酸ってどんな成分?
葉酸はビタミンB群の1つで、ほうれん草の「葉」から発見されたことから、『Folic Acid(葉酸)』と名付けられました。緑黄色野菜に多く含まれ、水に溶けやすい水溶性のビタミンです。正常な赤血球の合成に欠かせない栄養素であることから、「造血のビタミン」とも呼ばれています。また、動脈硬化予防にも重要な役割を果たしているビタミンです。
そして、最も知られているのは、胎児の中枢神経(脳や脊髄)のもとになる神経管が正常に形成されるために必要なビタミンということです。このため妊婦への積極的な葉酸摂取が呼びかけられています。
日本の国民の健康の維持・増進を目的に設定されている食事摂取基準(2020年版)では推奨摂取量が定められており、成人で240μg/日が示されています。妊娠初期には400μg/日の摂取が望ましいとされ、妊娠中期・後期には成人の推奨摂取量の240μg/日にさらに240μg/日を加えて摂ることが推奨されています。ただし、栄養補助食品やサプリメントから摂取する場合は上限量(900~1000μg/日)も示されていますので注意が必要です。※4
葉酸はどんな食品に含まれている?
葉酸は、ほうれん草などの葉物野菜のほか、レバー、枝豆、緑茶、海苔などに多く含まれています。葉酸を多く含む食品例は表の通りです。葉酸は光に弱いのでこれらの食品は冷暗所で保存するとよいでしょう。水溶性の葉酸は、熱にも弱いため、野菜は生で食べるのもお勧めです。そして、葉酸を含む食品と神経伝達物質の合成に必要なたんぱく質、ビタミン、ミネラルを含む食品も一緒に摂りましょう。
葉酸は野菜の摂取量に伴い変動
令和元年の国民健康・栄養調査によると日本人の葉酸の摂取量は図1の通り野菜類が最も多いです。一方、年代別の野菜摂取量は若い世代で少なく(図2)、それに伴い、葉酸の摂取量も若い世代が低い傾向にあります(図3)。
葉酸は特に女性に積極的に摂って欲しい栄養素
葉酸は、女性に多い症状である寝つきの悪さやうつ症状、貧血に深い関係がある栄養素です。そして、胎児の成長にも欠かせないビタミンにも関わらず、若い世代の女性で摂取量が不足しています。葉酸が多く含まれる食品やサプリメントも上手に利用して、葉酸が不足しないように意識しましょう。
偏食や小食、そして、食事時間が不規則な方は野菜の摂取量が少なりがちで、葉酸の不足が心配されます。また、うつ症状で食事がうまく摂れなくなり悪循環を招く可能性があります。
毎日の食事でバランスよく栄養をとれていない方や、葉酸の摂取量に不安がある方はかかりつけの医師に相談してみましょう。
(参考文献)
※1)Front Neurol. 2023 Sep 21:14:1225403
※2)J Affect Disord. 2011 Dec;135(1-3):10-9.
※3)Psychiatry Res. 2012 Dec 30;200(2-3):349-53.
※4)「日本人の食事摂取基準(2020 年版)」